新聞記事:国立武蔵野学院の院長  相沢仁さん 54 (さいたま市)  (2010年4月11日 読売新聞)

国立武蔵野学院の院長  相沢仁さん 54 (さいたま市

 さいたま市児童自立支援施設・国立武蔵野学院に入所するのは、主に窃盗や暴行などの非行に走った18歳未満の少年たちだ。その多くが虐待などの不適切な養育を受けてきた。同じ境遇の子らと約30年触れ合って確信している。「心の根っこで、大人からの愛情という栄養が不足している」

 他人を受け入れ、他人を大切にする家庭で育った。

 県内の児童相談所に勤める父親が、問題を抱える少年や非行少年を招いていた。1週間以上、一緒に暮らしたこともある。小学校時代、野球を教えてもらったのは非行を犯した高校生だった。温かく接する両親に、彼らの心がうち解けていくのが幼心にも分かった。「一緒に生活をして、子どもを支える仕事に就きたい」。大学卒業後、道は決まっていた。



相沢仁さん 埼玉や栃木県の施設で勤務。結婚後は夫婦で寮に入り、我が子と同じように、子どもたちを育てた。「誰かに大切にされた経験がなければ、大切にする心は育たない。施設はそれを学べる場だ」

 反抗的な子どもはいる。職員を試すように強がる。実は、自信がなく、心が不安定なのだと感じてきた。

 勤務した施設では、花壇作りに取り組んだ。種をまき、肥料を与え、雑草を取り、水をやる。肥料や水を与えすぎても、放棄しても、花は咲かない。

 ある日、来訪した車が誤って花壇を踏みつけた。激怒したのは、盗みを繰り返し、入所してきた少年だった。すかさず声をかけた。

 「悲しいよな。おまえが今まで奪った物も、誰かの大切な物だったかもしれないよ」

 少年は黙ってうなずいた。

 児童福祉のプロだが、子どもの心を開く特効薬などないと思う。「自分のことを一生懸命考えてくれている大人がいる。そう感じる積み重ねしかない」。向き合い続けること。社会が失いかけている“当たり前”の力を、この人は知っている。(矢子奈穂)



   ★児童自立支援施設・県立埼玉学園長 

         須藤三千雄さんから

  指導力抜群の「ジャイアン



須藤三千雄さん 12年間、県内の施設で同僚でした。こわもてで、声が人一倍大きいからでしょう、子どもからの愛称はジャイアン。「社会に背を向けたらもったいない。子どもが持つ力を引き出したい」とよく口にしていました。

 中学生全員を対象に<非行なき社会にするには何が必要か>という論文を書かせたこともあります。生いたち、考えを原稿用紙50枚の大作にまとめさせるのです。その指導力には驚かされました。独身時代は仕事後、おけを持って私の担当寮に来て、子どもたちと入浴。まさに子どもと“裸”で向き合う人間です。

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