新聞記事:僕らのダイヤモンド(中)児童自立支援施設  朝日新聞 2012.6.9

 平日の夕方になると、柏原市の丘陵部にあるグラウンドに、白いユニホーム姿の少年たちが集まってくる。同じ敷地にある児童自立支援施設=【キーワード】=、府立修徳学院の野球部員たちだ。


 学院には、窃盗や万引き、けんかなどで補導されるなどした10〜15歳の男女約60人が暮らす。集中力や忍耐を養うため、部活動への加入が義務づけられる。男子の場合、野球と陸上の二つだけで、野球部には27人が所属する。


 「元気出していこー」


 チーム一の大声で練習を仕切るのは、主将のケンタ君(仮名、14歳)だ。昨年10月に入所した。身長170センチ、76キロ。二塁手だが、試合では控えだ。


 中学に入り、友達と行ったゲームセンターで上級生の不良グループと知り合った。他校の生徒とけんかをして上級生から認められるのが楽しく、自分を強く見せようと、耳にピアスをつけて髪は金髪にした。


 遊ぶ金ほしさに他人からお金を巻き上げることもあった。警察に呼び出されては児童相談所の一時保護施設に連れて行かれた。


 同級生とのけんかでけがをさせ、3度目の一時保護施設に入った後、面会に来た父が涙を流した。初めて真剣に「ごめん」と謝った。児童相談所からの勧めで修徳学院へ入所した。


 修徳学院で野球を選んだのは、以前に遊びでやったという理由から。毎朝6時半からの素振りと夕方3時間の練習で、今年に入って体重は9キロ減った。


 施設職員でもある長嶺宏監督(38)に「しんどい時こそ声を張れ」とアドバイスされた。素直に出してみると、自分の声で周りが盛り上がった。最初は、フライも満足に捕れなかったが、守備の腕も上がり、練習が楽しくなった。


 打撃練習で一塁ベースカバーに入った時のこと。前の選手が送球を取り損ねた。飛びついて自分の胸に当てて止めると、仲間から「ナイスカバー」と声が飛んだ。入所前の遊び仲間では頼られることもなかったが、「役に立っている」とやりがいを感じた。息切れしている仲間に「あとちょっとや」と声をかけるようにもなった。


 5月下旬、長嶺監督から「キャプテンやってみいひんか」と声をかけられた。チームには、経験者が5人以上いる。驚いたが、チームのためになれるならと、「やりたいです」とその場で答えた。長嶺監督は「技術がなくても周りへの気遣いと人望がある。チームを引っ張れる」と評価する。


 退所後は高校に進学したいと思っている。高校で野球を続けるかどうか分からないが、7月に近畿8カ所の児童自立支援施設が集まる大会があり、この夏は全力で野球に取り組むつもりだ。


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 【キーワード】児童自立支援施設 


 児童福祉法に基づいて都道府県などが全国58カ所に設置する。1998年の同法改正までは教護院と呼ばれた。対象は18歳未満の男女。入所に至るには、家裁から施設に送る保護処分決定を受けた場合のほか、非行や虐待を理由に児童相談所が入所を勧め、保護者が同意した場合などがある。寮生活を送りながら昼は学校と同じ内容の授業を受け、夕方は部活動や施設清掃などの作業に励む。