親権の一時停止 法施行が1年後では遅い  =2011/06/06付 西日本新聞朝刊=

 親の虐待から子どもを守るため、民法の親権制度や、児童福祉法など関連法の制度が改正された。

 親権を最長で2年間停止することや、児童相談所長や児童養護施設の施設長らの権限を緊急時には親の意向より優先させることなどが可能になる。

 ところが、改正法の施行は1年近く先の来年4月だという。いま虐待で命を脅かされている子どもを救うためにも、法施行の前倒しを求めたい。

 児童福祉の現場では、これまで親権を持つ親の存在が「壁」となって、虐待から子どもを救う対応が遅れるケースが少なくなかった。

 今回の法改正によって、病気の子に必要な治療を受けさせない医療放棄や、親の暴力で命が脅かされていることが明らかな場合には、親の権限を法的に一時的に停止し、子どもの救済を最優先する対応が取れるようになる。

 現行民法でも、親権の乱用があれば家庭裁判所が喪失を宣告できる。しかし、親権の喪失は親の権利を無期限に奪うことになるため、関係者や親族も申請をためらう傾向にある。

 親権を奪うのではなく、関係者の判断で一時停止できるようになれば、児童福祉の現場にとっては虐待対応の選択肢が増えることになり、「子どもの命を救う道」が広がることを意味する。

 子どもへの親の虐待を深刻化させない有効な「歯止め」になり得るのではないか。新制度を積極的に活用したい。

 厚生労働省によると2009年度、虐待による子どもの死亡は67人に上る。全国の児童相談所への虐待相談件数は4万4千件を超え、過去最多を更新した。

 児童虐待では対応に一刻を争うケースがある。虐待を続ける親から子を離すための措置となる新制度の早い実施が求められる。それを可能にする改正法の早期施行に向けて、法務、厚労両省や警察庁など関係省庁の調整を急ぎたい。

 むろん、子の成長に責任を持つ親の権限は尊重されるべきである。容易に侵してはならない権利でもあり、本来、法律で規制することは望ましくない。

 しかし、現実に起きている虐待が最悪の事態になるのを食い止めるには、親権停止もやむを得ないだろう。生命が危険にさらされている子どもを救う緊急避難措置として、法で親の権利を一時的に停止することも許されるはずだ。

 新制度導入後は、親から離された子どもの保護・受け入れ態勢と同時に、親権停止期間中に親の生活を立て直すための支援や教育がいっそう大事になる。

 子どもを救い、親子の絆を修復して、子と親が安心して暮らせる日常に戻る−。虐待があっても、それが子の切なる願いであり、親の思いでもあろう。

 しかし、そんな日常を取り戻すには、親の「心の治療」や経済的自立の支援が何より必要だろう。親権停止期間は、そのためにこそ生かしたい。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
被虐待と親権の問題。施設においても重要なことです。確かに、1年先では遅い気もするのですが、しっかりと整理をしておかないと、振り回されそうです。